DMTea Ceremony Case

アヤワスカ茶が争われている最初の裁判

違法求刑・判決延期 ー京都アヤワスカ茶会裁判ー

違法求刑

令和4年1月11日に京都地裁大法廷で行われた結審で、立川検事は青井被告に実刑4年を求刑した。そして安永裁判長は、5月9日に判決を下すと決定した(→「結審」を参照のこと)。判決まで4ヶ月も要する理由が説明されなかったが、異例の裁判だという。

それから3ヶ月経った4月18日、判決が延期されるという、さらに異例の発表が行われた。


「地検ミスで判決が延期 京都地裁」(2022年4月19日 京都新聞

ほんらいの求刑は

  1. 被告人が所持していたDMT含有植物茶は麻薬であり違法である
  2. 被告人は懲役4年
  3. 所持していた茶は違法な麻薬であるから没収する

という論理であるはずが、立川検事が、没収(上記の3)を言い忘れた(没収求刑漏れ)。その点を訂正したいと裁判長に申し出たらしい。

検察官の求刑どおりに判決を出すと、被告人は違法麻薬であるソウシジュ茶を所持したまま、遺法麻薬を所持したという理由で処罰されるという矛盾が起こる。違法求刑である。

もっとも、より正確な情報によれば、青井被告本人から押収された茶ではなく、青井被告からソウシジュの樹皮を譲渡され共犯者とされた某氏が淹れた茶のことだという。

某氏がソウシジュの樹皮に湯を注いで茶にして冷蔵庫に入れたもの(これが麻薬の製造と所持と解釈されるというのが検察側の主張である)を改めて没収するという形式上の細かい手続きである。とはいえソウシジュの樹皮で茶を淹れた某氏も共犯者と見なされたのだから、某氏にとっては重大な問題である。

判決延期

その後あらためて弁論再開が6月10日と決まったが、それがまた直前になって7月に延期された。判決は、当初は5月9日と予定されていたが、このペースで進むと、夏休みを挟んで、9月以降にずれ込みそうである。

1月の求刑から半年たっても判決の目処が立たないという、異例に次ぐ異例の裁判になっている。

関係者の見解

判決延期の決定を受けて、青井被告本人、弁護人の喜久山弁護士、青井被告の近著『獄中で酔う』(彩図社[*1]の編集者、草下シンヤ氏が、それぞれ延期発表の当日にTwitterで以下のような見解を発表した。




 



 

草下氏がカフカの『城』[*2]の果てしなき迷宮を思い浮かべている ー それはアヤワスカ茶の知覚変容体験のようでもある ー のに対し、ライトノベル作家でもある青井被告は、とくだんの不服を漏らすわけでもなく、拘留手記『獄中で酔う』に続いて、さらなる著作を出版する意欲を見せている。

こうした発言はまた、被告人質問における青井被告の「起訴した以上は有罪にしなければいけないというプレッシャーがかかる。ブラック企業になっている。しかし、検察官個人を弾劾しないでください。第二、第三の人権侵害が生まれてしまわないよう、組織として解決してほしい。組織の問題として改善していってほしいと思います」(→「被告人質問」を参照のこと)という発言をふまえており、被告人が苦境にある検察官を弁護するという、これもまた異例の図式である。

追記

「没収求刑漏れ」という違法求刑については、薬物事件においては前例がないわけではなく、ときどき起こることらしい。以下の記事のように、覚せい剤取締法違反事件で、裁判官も遺法求刑に気づかないまま判決を出してしまったという不祥事もあったという。

ameblo.jp
「特に、没収求刑漏れというのは『危ないミス』としてそれなりに認識が行き渡ってきている気がするのですが。分かっていてもやってしまうのがミスということなのかもしれませんが」[*3]

罪刑法定主義明確性の原則、違法求刑・没収求刑漏れ等々、法の解釈や裁判の手続きで次々と問題が起こり、異例の展開が続いている。

裁判を長引かせて被告人を追い込んでいくような嫌がらせではあるまい。嫌がらせならもっと狡猾な方法を使うだろう。長引く裁判で苛立ち疲弊しているのは検察側のようだ。学術的な部分だけを見ても、検察側は、内容をよく読んでいないのであろう、被告人に有利な内容の学術論文を提出したり、英語論文の和訳が明らかに機械翻訳のままだと思えるような可笑しな日本語だったり、繰り返される自滅的な失態の繰り返しを、裁判官はどう考えているのだろうか。

この完成された官僚制、99.9%精密なシステムは、それが正常に作動しているかぎりは、きわめて優秀な安全装置として機能するが、0.1%の誤作動は想定外である。綿密なシステムほど、想定外の事態に対応できないという脆弱さがある ー という議論は「著者の見解」で詳述したので、ここでは繰り返さない。

アヤワスカ茶とは何か。DMTとは何か。それが脳にどのような作用を及ぼし、人間の意識や社会においてどのような意味を持つのか、それこそが異例の問いかけであるはずの裁判なのだが、医療や宗教という問いは争点からは外されている(→「第九回公判・第十回公判」を参照のこと)。

DMTは脳内でも生合成される神経伝達物質である。それを所持しているのが犯罪だというのは、ヨーガや瞑想などの健康法で精神性を高めようとするのが自傷他害の健康被害を引き起こす犯罪だというのと同じぐらい可笑しなことである。

人々が植物から作られたアルコールで酩酊するのを楽しむ一方で、サイケデリックスやカンナビノイドを所持しているだけで逮捕されて刑務所に入れられてしまった、昔はそんな文化があったのだ、と、歴史上の出来事として振り返られる時が早く来ることを願う。



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  • CE2022/04/19 JST 作成
  • CE2022/06/09 JST 最終更新

蛭川立