西暦2022年1月11日、13時30分。京都地方裁判所、101号、大法廷。
三人の裁判官が法廷に入る。全員が起立し、一礼した。
検察官による長い論告が早口で読み上げられた。今までの1年半、争われた内容を総括しているのだから、内容が長い。
検察官は何度も「アワ、あ?ヤワスカ」と言い間違えたが、無理もない。インカ帝国の公用語たる、ケチュア語である。それが日本の古都である京都で語られるとは。
そして、求刑が行われた。
「広く、不特定多数の客に対し麻薬の害悪を拡散させていたのであるから、悪質というほかない。動機に酌量の余地はなく、意思決定には強い非難が妥当する。反省の態度は認められず、再犯可能性も高い。矯正施設に収容し、猛省を促すとともに、徹底した矯正教育を施す必要があり、四年実刑に相当する」
これに対し、弁護人の、長い最終弁論が行われた。これも、論告と同じぐらい長いが、若い弁護士の語りは、ゆっくりと、そして力強かった。
「七件、すべての事件において、被告人を無罪にするしかありません」
最後に、被告人に最終陳述の機会が与えられた。
裁判官が問いかけた。
「以上で審理は終了しますが、最後に何か言いたいことはありますか」
青井被告は、なぜか小さなホワイトボードを持って証言台に移動した。
この前、科学館に行ってきたんですよ。ジャイロを使ったアトラクションがあって、自分はその仕組みがよくわかりませんでした。自分は高校では生物をとっていて、物理はとっていなかったからです。
どんな反省や謝罪の言葉が出てくるかと思ったのだが、唐突に科学館のアトラクションの話である。
検事さんが「分離」や「抽出」という言葉を間違って使っていたとしても、あるいは分岐分類学の概念なども、用語の使用法が間違っていても、まあ、いたしかたのないことです。
裁判が終わった後で検事さんを三月に左遷するとか[法廷に失笑、聞き取れず]するとか、一切しないようにしていただいて。
本当に、この場を作ってくださったことに感謝します。この場は、もうセラピー会場だと、感謝が止まりません。感謝します。
反省でも謝罪でもない、感謝である。
法廷はセラピー会場であり、感謝しているという。検察官個人を譴責するのではなく、検察は組織としての体質を改めていただきたい、という、被告人質問(→「被告人質問」)と同じ言葉が繰り返された。
最初の接見のとき、青井被告が「検事さんをゆるしてあげてください。あの人は自分がしたことがわかっていないんです」と言った、まるで人類の原罪を背負う救世主のような言葉を思い出した。
裁判官も検察官も、またか、という表情のままで、ほとんど話を聞いていないように見えた。
すみません、もう一点。
逮捕されたときに、留置所の、通称、たまり場というところで、自分は、はじめてヤクザという方に会いました。そのヤクザの方に「おいお前、結審では何て言うんや」と聞かれたので、自分が「世界平和のためにやりました、と言います」と言ったら、ヤクザさん、大笑いしていました。「量刑増やすだけやで」。
なぜ?そのとき自分は、なぜそのヤクザの方が笑っていたのかが、理解できませんでした。
自分は世界平和のために活動してきました。これが罪に当たるとは思っていませんでしたし、今でも罪だとは思っていません。
判決の日程調整が行われた。判決は5月9日の月曜日、午前10時と決まった。4ヶ月も先だ。
裁判長が閉廷を宣言した。全員が起立し、一礼した。
【注】この速報記事の続きに書いた、青井硝子事件のマゾヒズム的性質については「『姉み』の挑発」という別記事に独立させた。
→「京都アヤワスカ茶会裁判・トップページ」
CE2022/01/11 JST 作成
CE2022/09/17 JST 最終更新
蛭川立