DMT ー ありふれた構造の特異な物質 ー

動物の体内と植物の体内で同じ物質が生合成される

DMTはセロトニンと構造が類似しているインドールアルカロイドであり、5-HT受容体に作用する、ドーパミンノルアドレナリンが類似しているように、ありふれた構造の神経伝達物質である。

しかし、動物の体内と植物の体内で同じ物質が生合成されるという点では特異である。

動物の体内で生合成されるDMTは神経伝達物質として機能するが、代謝産物として尿中に排泄されるインドール-3-酢酸は、植物の成長ホルモンとして機能する。いっぽう、植物の体内で生合成されるDMTは、たとえばミカンの葉に含まれ、捕食者である昆虫に対し、忌避作用を持つ。また、果実に含まれる種子は、捕食者である動物の体内に入り、栄養分となる排泄物とともに散布される。ここで、動物は、植物の「延長された表現型」である。もし果実に含まれるDMTが、捕食者である動物にとって、なんらかの報酬になるなら、これも植物と動物の共進化なのかもしれない。

グルタミン酸神経伝達物質としても機能するが、これは、さらにありふれたアミノ酸である。

DMTは神経伝達物質であると同時に、精神展開薬でもあるという点でも、特異な物質である。低酸素状態ではシグマ-1受容体に作用し、臨死体験のような、超越的な神秘体験を引き起こす。

外因性の物質と内因性の物質が同じである

植物に含まれる物質が向精神作用を持ち、後から、その物質が作用する受容体が発見され、さらに、脳内にも同じ受容体に作用する物質が発見される。このこと自体は、科学史の中で、繰り返されてきた。

たとえば、ケシに含まれるモルヒネ受容体に作用する神経伝達物質が脳内でも発見され、内因性モルヒネ、エンドルフィンと名づけられた。しかし、エンドルフィンとモルヒネは、まったく分子構造が違う。

同様に、大麻に含まれるカンナビノイド受容体に作用する神経伝達物質も発見され、アーナンダミドと名づけられた。しかし、アーナンダミドとカンナビノイドも、まったく分子構造が違う。

DMTは、アマゾンのチャクルーナだけではなく、アカシア、ミモザ、ミカン、ヤマハギなど、多くの植物に含まれており、5-HT受容体に作用する。5-HT受容体に作用する神経伝達物質セロトニンであるが、DMT自体もまた、5-HT受容体に作用する、内因性の神経伝達物質である。

「脳内麻薬」は「麻薬」の「所持」か?

DMTは麻薬として規制されているが、ヒトの体内でも生合成されているから、これは「麻薬」を「製造」し「所持」することなのだろうか。ここに、神経伝達物質と同様の作用を持つ物質を所持することが犯罪とされる法体系の基本的な奇妙さが露呈している。

たとえば、覚醒剤メタンフェタミンは、規制薬物であるが、人工的に合成されるものである。体外から摂取しないかぎり、体内には存在しない。尿からメタアンフェタミンが検出されれば、その人物がメタアンフェタミンを施用したことがわかる。しかし、尿からDMTが検出されても、体外から摂取したのかどうかは判断できない。ヒトの体内では内因性DMTが生合成されているからである。

また、コカインはコカという植物から抽出される規制薬物であるが、コカインを含む植物であるコカも、日本の法律では、麻薬原料植物として規制されている。しかし、コカインはヒトの体内では生合成されない。

ところが、DMTは違法薬物だが、一般的に食用とされるミカンなど、多くの植物がDMTを含有しているにもかかわらず、それらの植物は、日本の法律では、麻薬原料植物としては規制されていない。合法的な植物と、違法なDMTの中間的な形態である茶が規制対象かどうかは、日本の麻薬及び向精神薬取締法には、明文化されていない。明文化されていないということは、合法と解釈されるのだろうか。



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CE2021/04/02 JST 作成
CE2021/04/03 JST 最終更新
蛭川立