0、尿中のDMT ー茶に由来するかー
青井被告の尿検査
- 2020年2月26日に催された茶会で、青井被告は、ミモザの茶をモクロベミドと共に服用したと供述している。
- 2020年3月3日、青井被告が逮捕されたときに、青井被告の尿が採取された。分析の結果、尿中にDMTが検出された。
- 2020年5月18日、青井被告の拘留中に、青井被告の尿が採取された。分析の結果、尿中にはDMTは検出されなかった。
- 2020年6月19日、青井被告が再逮捕されたときに、青井被告の尿が採取された。分析の結果、尿中にはDMTは検出されなかった。
検察側の主張
弁護側の反論
- 人間の体内では内因性DMTが生合成されており、その一部は代謝されずに尿中に排泄される。
- 合成・排泄される内因性DMTの量は大きく変動する。
- 排泄される内因性DMTの量には、日内変動があるかもしれない。朝に多く、夜に少なくなる、という研究もあるが、はっきりしない。
- 合成・排泄される内因性DMTの量は大きく変動する。
- 人間がDMTを経口摂取すれば、すぐに分解されて、インドールー3ー酢酸などに変わる。DMTをRIMA(可逆性モノアミン酸化酵素A阻害薬)であるモクロベミドと共に服用しても、代謝されずに尿中に排泄される量は、6〜12時間以内に、内因性DMTに由来するDMTと区別がつかなくなる。
- ゆえに、ミモザ茶を服用した6日後に採取された尿中にDMTが検出されたとしても、青井被告がミモザ茶を服用した物的証拠にはならない。
検察側の反論
- もし人間の体内でDMTが合成されるのなら、体外からDMTを摂取する必要がないはずである。
青井被告の反論
- 人間が十分な量のDMTを生合成するためには、長期にわたる瞑想修行が必要である。
- 現在苦しんでいる人たちには、長期にわたる瞑想修行を行う余裕がない。ゆえに、体外からDMTを摂取する必要がある。
1、麻薬の定義 ー茶は麻薬かー
検察側の主張
弁護側の反論
- DMTは、麻薬及び向精神薬取締法で規制されている麻薬である。
- しかし、ミモザは、麻薬及び向精神薬取締法で規制されている、麻薬原料植物ではない。ゆえに、ミモザは麻薬ではない。
- ミモザ茶は、ミモザという植物の一部分を水と混ぜたものであり、DMTという麻薬を抽出したものではない。ゆえに、ミモザ茶は麻薬ではない。
- 麻薬成分を含む植物の一部分を水に溶かしても、化学変化が起こっていないので『大コンメンタール』に書かれている麻薬製造の定義に当てはまらない。
- DMTは国際条約で規制されており、日本政府もこの国際条約を批准している。
- 国際条約には、DMTを含む植物や、DMTを含む植物茶が規制されているとは書かれていない。
- INCB(国連麻薬統制委員会)は、DMTを含む植物から作られる茶は、国際条約では統制されていないという見解を示している。
2、罪刑法定主義 ー薬草協会の茶をだけを取り締まれるかー
弁護側の主張
検察側の反論
-
- オレンジジュースは広く流通しているかもしれないが、ほとんどの人は、そこにDMTの薬効を求めていないから、それは麻薬とはいえない。
弁護側の反論
- DMTを含むヤマハギを水に溶かしたハギ茶は、日本では伝統的に服用されており、ノイローゼや婦人病に効果がある薬として、薬効を享受するために使用されてきたのに、麻薬として取り締まられていない。
3、正当行為 ー茶会は真摯な宗教行為かー
弁護側の主張
- 青井被告は、娯楽などの目的ではなく、精霊崇拝や仏教思想にもとづき、精神の不調などで苦しむ人を癒やすという目的で茶会を催した。
- 仮にアヤワスカ茶が違法であったとしても、青井被告の行為は、真摯な宗教行為である。これは刑法が定める正当行為であり、違法性は阻却される。
以上、0〜3の争点に関して、2020年3月の時点で、検察側からは明確な反論が行われていない。とくに1〜3については、2020年6月に行われた初公判で、弁護人が主張してから、9ヶ月が経っている。
著者の考察
著者は、この事件を、学術的に公正な立場から考察したいと考えている。しかし、検察官が青井被告を起訴した理由には誤りが多いと考えざるをえない。また、弁護側の主張のほとんどに対して、検察側が論理的な反論をしていないのは、実質上、弁護側の主張の大半を認めている、つまり、検察側は、自らの主張が誤りであると認めているに等しいと考えざるをえない。
これは、私の推理であり、被告人や弁護人の主張とは、必ずしも同じではない。
尿中DMTについて
麻薬の定義について
- 茶を麻薬として規制するかどうかは、法律によって定められるべきである。
- 日本の麻薬及び向精神薬取締法では、麻薬原料植物以外の植物は、規制されていない。
- 日本の麻薬及び向精神薬取締法では、麻薬原料植物以外の植物から作られた茶については、言及されていない。
- このような茶についての判例は存在しない。
- 国内法は、国際条約やその解釈よりも厳しい規制が可能である。
- ゆえに、茶が合法かどうかについては、裁判官が判断することであろう。
罪刑法定主義について
- 弁護側の主張の通り、青井被告の茶だけが規制される理由はない。